土元 哲平

Career decision - making as dynamic semiosis: Autoethnographic trajectory equifinality modelingCulture & Psychology(文化と心理学):SAGE社

邦題「動的記号過程としてのキャリア意思決定:オートエスノグラフィックな複線経路等至性モデリング

この度は、国際フロンティア奨励賞をいただき光栄です。本論文は、博士後期課程での指導教員として丁寧にご指導くださったサトウタツヤ先生、いつも新鮮なアイデアをいただけるヤーン・ヴァルシナー先生のご指導なくしては書き上げられないものでした。深くお礼申し上げます。
本論文では、オートエスノグラフィーと複線径路等至性モデリングとを融合させたAuto-TEMという方法論を用いて、第1著者(土元)のキャリア意思決定(「教師になる」こと)についての、人生径路を通した変容過程を検討しています。詳しい説明は本文に譲りますが、私自身、理学部で学部時代を過ごし、理科教師を目指していました。しかし、修士学生として学んでいるとき、転機とも言える劇的な経験をすることとなりました。それは「教師になる」目標が揺らぎ、自分のキャリアを問い直す経験でした。この経験から、キャリア意志決定を検討する際には、人生の一時点(例えば、大学卒業時)での結果だけでなく、人生径路全体の中での動態性や意味づけを理解することが重要であると考えました。特に本研究では、キャリア意志決定を、眼前の未来に向けて絶えず「前構築」し続ける動的記号過程とみなしています。
この受賞を契機として、オートエスノグラフィーのような、感覚や感情を意図的に位置づけた質的研究方法論について、議論を深めていきたいと考えています。感覚や感情は主観的なものであるという理由のみで批判される場合がありますが、主観的だから何が問題なのでしょうか(それは実証主義的な立場でのみ問題となり得るものです)。生きる実践として、あるいは、現場における行為として身体化され、精緻化され、公共性へと開かれていく「主観的」な感覚や感情に、質的心理学の更なる可能性があると信じています。それらを創造的・想像的に活用できる方向性を、今後も探っていきたいと思います。


小山多 三代

An Examination of TEA Beyond its Utility as a Research Method to its potential as a Life PhilosophyThe 5th Transnational Meeting on TEA(第5回TEA国際集会)

邦題「複線径路等至性アプローチの人生哲学への応用:研究方法を超えた可能性」

この度は、国際フロンティア奨励賞という大変名誉ある賞を賜り、心より感謝申しあげます。本研究は、文化心理学に依拠する質的研究方法「複線径路等至性アプローチ(以下、TEA)」の哲学としての可能性を示したものです。近年、TEAは多岐にわたる研究領域で活用が広がっており、人のライフを丁寧に捉える研究方法として有用性が認められています。このように、研究のツールとしての顔を持つTEAですが、私はTEAを研究に生かす過程で、TEAがすっかり自分自身の一部となっているかのように感じました。つまり、TEAを単なる「研究方法」として外的に捉えるというよりも、自身の「哲学」として内化させ、日常的な思考にまで生かしていることを認識するようになりました。“No TEA、 No Life.”と言っても過言ではないかもしれません。これまでの研究生活では、あらゆる困難や苦悩の中で、幾度も研究を断念する方向へと向かいました。このような中、私に力を与えてくれたのがTEAの考えでした。苦悩の絶えない時期においても、TEAとの対話を通して、自分自身の「分岐点」を生み出す決意ができ、前向きな未来を志向することができました。
ここに至るまでには、数え切れないほど多くの方々のお力添えを賜りました。本発表に挑戦することができたのも、現在の指導教員である安田裕子先生(立命館大学)のおかげです。今もこのように研究を継続できているのは、私を温かく迎え入れてくださった安田裕子先生の存在あってこそと深謝申しあげます。また、私が質的研究を始めて間もない頃、大変親身にご助言くださった先生方にも感謝申しあげます。とりわけ、石黒武人先生(立教大学)や根本愛子先生(東京大学)は、質的研究を行う上での大切な心構えをご指南くださり、私がTEAとともに歩むスタート地点を築いてくださいました。その当時の学びは、今も研究生活の大切なコンパスとなっています。他にも、ここにお名前を記しきれないほど多くの方々に支えていただきました。この場をお借りし、感謝の意を表します。本受賞を励みに、今後も一層精進してまいる所存です。改めまして、この度は誠にありがとうございました。