優秀フィールド論文賞

田村 南海子・塚本 尚子

ドナー家族の脳死下臓器提供プロセスにおける体験と心理的軌跡 ― ドナー家族に対する看護ケアの発展に向けて―第14号(2015), 146-165.

本論文は、ドナー家族が脳死下臓器提供の一連のプロセスで体験した出来事と心理的軌跡に焦点を当て、一連のプロセスのいかなることが提供後の家族の長期的受け止めに影響を及ぼしているかを考究したことに意義がある。ドナー家族へのインタビューに基づいてデータ収集が行われているが、ドナー家族が語ったことと筆者らがそこから推察したことが混在して考察されている部分が幾分か見られる。質的研究は語りと筆者の考察を区分することが重要であるので、筆者らには今後はその点に留意していただきたい。しかしながら、論文中にドナー家族の語りとして引用されている言葉1つ1つに家族の苦しみ、痛み、そして癒やしなど、赤裸々な感情が垣間見られる点が評価される。インタビューの場合、社会的望ましさから無難なことが語られることや、インフォーマント(面接を受ける人)自身が心の蓋を開けるのを恐れ、深い感情と対峙せずにいることも少なくない。その意味で、本論文で、家族の脳死下提供というデリケートな体験をもつ方々を対象としたデータの収集に成功していると考えられる。それは筆者らのそれまでの臨床経験が研究という俎上に活かされているとも言えよう。筆者らの今後の活躍に期待したい。


優秀リッチリフレクション研究論文賞

村田 観弥

関係に着目した『発達障害』概念の様相第15号(2016), 84-103.

著者の村田氏は、カテゴリー的な枠組変動を継続的に起こしているようにみえる「発達障害」概念に関して、探究の焦点を、発達障害当事者側のみに置くのでもなく、かといって、支援者側のみに置くのでもない形で論じている。この社会関係全体を視野に入れた学際的研究は、その研究構想のまっとうさにおいて、評価に値する。たしかに、理論的方法論的議論の部分については、いまだ形成途上とも思われること、論文の書き出しに書かれている、初発の問い(発達障害ブームの原因探求?)と見えるものが、そのまま「問い」の資格を維持しているのか、失っているのかが、議論の流れの中で判然としないこと、等の問題はある。しかし、数年間に及ぶ「フィールドワーク」から得られた「記録群」の厚みは圧倒的である。さらに、分析にあたっては、自らの推論を、繰り返し再吟味しており、このように知的な活動を誠実に反省的に実践しているさまは、大変にすがすがしい。総合的に評価をするならば、得られた知見の適否には疑義があるものの、現場的実感に拘泥せず、既存の学説の追認に流れない村田氏の態度は、質的データの解析に取り組む態度として模範的であるといえる。そのため、本論文に優秀リッチリフレクション論文賞を贈ることとした。今後の更なる活躍を期待したい。


優秀非日常体験分析論文賞

野口 聡一・丸山 慎・湯淺 麻紀子・岩本 圭介

『宇宙にいた私』との対話─宇宙空間での“つ ぶやき”に私の変化を見る第15号(2016), 193-216.

本論文の意義は、宇宙という非日常的な空間にいる第一著者(宇宙飛行士)が地上とい
う日常空間とのつながりを分析した点、宇宙開発研究に質的研究を用いたという先駆性で
ある。著者達は、宇宙ステーションの滞在の初期から終盤に至るまでの、第 1 著者のツイ
ートを基礎データにして、言葉や「、」「。」という句読点、「!」といった記号をテキ
ストマイニングすることによって、第 1 著者がどのように宇宙空間に適応していくのかを
検討している。著者達は、宇宙飛行士が「宇宙―地球―自己」の関係性を学習するととも
に、国名から都市名へより言及していることから、「地球外からみた地球」感覚を分化さ
せていることを見出した。宇宙空間の滞在を分析対象にしている点においてこの適応過程
は貴重である。同時に、自己の環境との再定位自体は、異文化や中途障害への適応研究と
も類似しており、この意味では、斬新な知見を得られたとはいいがたいかもしれない。だ
が既存分野との類似性は、本研究の価値を低めるのではなく、既存の知見を宇宙研究に用
いられることを示唆した。ここに、宇宙開発研究への人文社会科学的アプローチの重要性
が示されたのである。