優秀物語発掘論⽂賞
沼⽥ あや⼦
発達障害児の⺟親の語りのなかに⾒る家族をつなぐ実践 - 「葛藤の物語」から「しなやかな実践の物語」へ第15号(2016), 142-158.
発達障害児の⺟親⽀援においては、⽀援者が⺟親の⽇常⽣活に配慮することが⽋かせない。
本論⽂は、発達障害児の⺟親にインタビューを⾏い、⺟親が語る⼦と⽗親(夫)と暮らす⽇常⽣活のエピソードに着⽬し、⺟親が家族との関わりのなかでどのように⽣きているかを描き出すことを試みた。従来の障害児の⺟親のストレス研究が問題発⾒・解決型の研究とすると、⺟親の⽇常⽣活の意味世界に寄り添う本論⽂は物語発掘型の研究と⾔えよう。⺟親の語りを M-GTA を⽤いて分析した結果、⺟親が家族というフィールドにおいて主体的に⼦や⽗親と関わり、⽇々の課題についても⾃ら考え乗り切ろうとしている様相が明らかになった。従来の研究では障害児の⺟親は葛藤をもっているという前提で実施されていたが、本論⽂は、⺟親が平穏な⽇々を願いながら家族をつないでゆく「しなやかな実践の物語」を発掘した。発達障害児の⺟親の⽀援という実践上も意味のある論⽂と考えられる。以上から、選考委員会では、本論⽂を優秀物語発掘論⽂賞にふさわしいという 結論に⾄った。
会は本論⽂が優秀着眼論⽂賞にふさわしいという結論にいたった。
優秀ビデオエスノグラフィ論⽂賞
堀⽥ 裕⼦
残されるモノの意味 - 線条体⿊質変性症患者とその介護者の事例より第16号 (2017),63-78.
本論⽂は、きわめて進⾏の早い難病である「線条体⿊質変性症」患者の在宅療養において、病気の進⾏によって使えなくなったリモコンなどのモノが、そのままそこに残されているという、⼀⾒⾮合理的な⽣活環境について、ビデオエスノグラフィの⼿法を通して考察し、それが病気の進⾏に抗う「素⼈実践の有能さ」の現れであることを、エスノメソドロジーの着眼点とメルロ=ポンティの⾝体論とを組み合わせることによって、説得的に⽰している。すなわち著者は「推論の域をでないかもしれない」と断りながらも、まだ病状が進んでいない時に、⼀度⾝体化された⼿⾜の延⻑としてのリモコンなどの道具の配置と使⽤こそ、かつてリモコンが使⽤できた過去の⽣活環境を呼び起こし、その結果、新たな⾝体化を次々と要求する進⾏性の難病に抵抗する素⼈の実践であると主張する。かつて病者の⾝体の⼀部であった道具を、「残されるモノ」として、介助者がそれを使い続けるという⾝体的実践によって、在宅療養の記憶である「垂直に積み重なる時間」が空間的に維持されていくのである。ここに、病気に振り回される当事者の負担感を軽減する可能性を読み取るのは、けだし慧眼である。
優秀着眼論⽂賞
古市 直樹
⼩集団学習中にジョイント・アテンションはどのように機能しているか - 中学校社会科の授業場⾯を事例として第16号(2017), 174-190.
⼩集団学習における共同⾏為を分析するにあたっては、複数の参加者の発話・⾝振り・空間・物を関連づけて分析することが重要であると考えられる。本研究は、このためにジョイント・アテンションの概念を導⼊し、中学校社会科の⼩集団学習の事例において、ジョイント・アテンションが果たす機能について分析したものである。授業映像の詳細な分析の結果、ジョイント・アテンションは⽣徒たちに教材についての思考の相互⽐較を⽣成させる機能を持つことが⽰唆された。従来の⼩集団学習の研究が空間・物との関係を⼗分扱えなかったことを課題として、ジョイント・アテンションの概念に着眼してこの課題に挑んだ意義は⼤きいと考えられる。分析結果は学校現場での授業実践に対しても多くの⽰唆を与えるものであると考えられる。以上から、選考委員会は、本論⽂が優秀着眼論⽂賞にふさわしいという結論に⾄った。論⽂の読みやすさにはやや難点もあったが、複数の参加者の発話・⾝振り・空間・物を関連づけることで、分析⾃体は複雑にならざるを得ない。このことを踏まえると、今後は、図と記述の位置の調整、⽂章表現などの点でさらなる⼯夫を重ねることによって、論⽂がより読みやすくなることを期待したい。




