人間は〈ことば〉の世界を生きている―これが現在の質的心理学の「常識」であり、多くの分析手法もこの前提に基づいている。しかし、元来、人間の〈ことば〉は〈からだ〉の働きに基礎を持つものとして発展してきたものである。また、どんなに〈ことば〉の世界が発展したとしても、人は最終的にはこの〈からだ〉でもって生きるほかない。そうした事実を忘れ、〈ことば〉の世界にのみ研究者の目が向くとすれば、それは人間の生に迫ろうとする質的心理学にとって大きな危機ではなかろうか。
当企画では、〈からだ〉と〈ことば〉がいかなる関係にあるのかを改めて問い直し、人間の生を捉えるためにどういった視点が重要なのかを、3人のパネリストの講演を手掛かりにして考えていく。3人に共通するのは、〈からだ〉と〈ことば〉が特異(非定型的)な結びつき方をしているように見える人々(共感覚、自閉症、幼児など)の独特の感覚世界を参照しつつ、思索を進めていることである。
〈からだ〉のいかなる働きから〈ことば〉が生まれ、いかにして我々の世界を作り出していくのか、さらにはそのことが〈からだ〉にいかなる作用を及ぼすものなのか―感覚の「異文化」との接触を通して、そうした問題への糸口を模索していく。




