優秀フィールド論文賞
近藤(有田)恵・家田 秀明・近藤 富子・本田(井川)千代美
生の質に迫るとは ― 死に逝 く者との対話を通して第9号(2010年),68-87
人が人のそばに身を置き、そこで生じた会話を丹念に聞き取り、その経験を書きとめ、ふりかえりまた書きとめる。質的心理学という研究領域は、実践に関わる研究者自身の経験の深化と切り離せない。終末期医療の現場であるからこそ、何気ない対話が「生の質」を本源的に捉えなおすことになる。「生の質」という問題のとらえが概説的に過ぎるところがこれからの課題であろうが、これもフィールドのもつ深刻さに対して、バランスをとるのに必要な作業であったと推測する。ターミナルを生きる人のそばに寄り添う場を経過するにしたがって、著者たちの問題意識も変化し、深まっていく。論述そのものの変化が読み取れ、一人の個人の死を看取っていくことの重みが研究方論の議論を越えて伝わってくる。何より、このようなフィールドを研究領域として切り開いた点を評価し、今後を期待したい。
優秀着眼・発想論文賞
青木 洋子
食事における容器操作の縦断的研究 ― 容器の発見と利用の過程第10号(2011年),25-45.
ビデオを用いた観察研究では、時に、広大なる沃野に呆然とすることがある。再生できなければあきらめたであろう、対象、行動、時間が組み合わされた、無限とも思える観察単位を見出せるからである。容器操作を扱う本研究は、先達の示す「意味の発見過程」「動詞による分類」を頼りに、まずは、いわば愚直に出来事を整理する。おそらくこれしかない。そして、飛躍。その成果の大半を切捨て、変化が大きかった操作「入れる」に絞りこむ。すると、「入れる」環境としての容器の「穴」が、存在論を経由しながら見出されたのである。それまで無かったものを発見し利用する、つまり質的な変化について、質的研究法を携えて挑戦できることを本論文は示した。その怯まぬ目線は、着眼・発想論文賞にふさわしい。
優秀クリティカル論文賞
八ッ塚 一郎
高校家庭科教科書の言説分析と教科再編への展望第10号(2011年),97- 115.
本論文では、高校家庭科教科書に着目し、現場教員の使いづらいという声を背景に、現行教科書の中にある明確な重複や齟齬がある理由として、「フーコー的権力が作用し、当事者(引用者注:教科書執筆者など)同士、にっちもさっちもいかない状態に陥っている可能性」を指摘する。そしてKJ法を用いての目次の並べ替えを試み、本文に見られる語り口への違和感を元にした言説分析を行い、さらに家庭科教科書の歴史的変遷に言及しつつ、「新しい家庭科教科書のイメージ」を提示している。「多彩な学問分野が交錯する実践的領域」である「家庭科を中心に教科を再編することは、教育を「再生」し「変革」する王道」であると筆者は主張する。既存の高校教科書の有り様に大胆に切り込み、論を展開するスタンスは、優秀クリティカル論文賞の名にふさわしい。ここで示された批評的な言説が、おそらく一番それを届けたい教科書の作り手側にどう届くのかが気になるところである。




