優秀当事者研究論文賞

原田 満里子・能智 正博

二重のライフストーリーを生きる ― 障がい者のきょうだいの語り 合いからみえるもの第11号(2012年),26-44.

障がいをもったきょうだいのある筆者(第1執筆者)が、同じように障がい者のきょうだいがいる2人の「当事者」と、それぞれ長い時間をかけて語りあったことをもとに、「障がい者のきょうだいを生きるということはどういうことか」を明らかにしようとした野心的な論文である。協力者は 2人。3人兄弟の長男で6歳年下の三男に障がいがある T さんと、3人姉妹の末っ子で10歳年上の長女に障がいがある M さんである。語りあいの結果得られたものを、「これまできょうだいとして生きてきたこと」、「これからきょうだいとしてどう生きるか」、「きょうだいを生きることを「語る」とは」という3項目に整理し、それらに基づいて、協力者および筆者自身が、自らと兄弟姉妹のライフストーリーという2つのライフストーリーをどこかで重ね合わせながら生きているのではないかと捉えかえす。そして、その生の特徴を「二重のライフストーリーを生きる」と筆者は表現する。身近な少数の協力者を選んだことによる限界を認めつつ、協力者との語り合いに共通する点、むしろ共通しない点にも着目し分析することで、「当事者」でもある筆者自身の気づきにも繋げている。その発展形は、既刊の第 12 号に掲載された「対話的な自己エスノグラフィ」という筆者の論文に盛り込まれた。まさに「当事者」であることから可能になった質的研究のひとつのかたちが見えてくる。その方法論のさらなる探求と、このテーマのいっそうの深化に期待したい。


優秀方法論探求論文賞

藤井 真樹

共感を支える「共にある」という地平 ― 父の闘病に寄り添う体験の記述から 第11号(2012年),63-80.

人と人がつながるところ、そこには「概念としての共感」で説明される以前の「いま、ここ」でのありようがある。著者は、それを「共にある」という存在様式として捉え、父の闘病に寄り添う著者自身の体験をもとに例証していこうとする。その記述は通常科学としての心理学でまず採用されることのない一人称的記述であり、「生身の人間の生の充実を目指すという人間科学本来のあり方」をめざす挑戦的なものである。苦しい闘病生活を送る父に寄り添う著者はただ「見守る」のではなく、「いま、ここ」での微細で何気ないエピソードから、自らが父という存在と「共にある」ことの意味に気付いていく。それは親子をめぐる通常で常識的関係を超えたところで「知覚する身体」を生きることであり、「わかる」ことを根源的に反省し得るような「他者の他者性」をつきつけられることでもある。著者自身も指摘しているように、本論文の内容は、父と子、父と娘という親密な関係性のなかで生起した経験をもとにしたものであり、親密な関係性が生きられていない現実で、妥当し得るかどうかという限界性はある。しかしこれは限界性ではないだろう。質的心理学そして質的研究がめざすものは質的データをどのように扱うかをめぐる洗練ではないはずだ。本論文がまさに対象としたような言語化しがたい人と人のつながりのありようをどのように捉え、その意味を論じていけるのかという、まさに質的な現象をいかに扱い得るのかの洗練なのである。この意味で、本論文は、臨床をめぐる人間の営みやそれをめぐる実践知や実感などを扱う方法論可能性を探求する優れた論文と言える。


優秀フィールド論文賞

日高 友郎・水月 昭道・サトウ タツヤ

神経難病患者の生を捉えるライフ・エスノグラフィー ― 在宅療養の場の厚い記述から第11号(2012年),96-114.

本研究は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の在宅療養の場をフィールドとしたエスノグラフィ研究である。ALS は原因不明でかつ有効な治療法が存在しない進行性の典型的な難病である。20 世紀型の「病院の医療」から 21 世紀型の「在宅療養・地域包括ケア」へと、医療の文脈そのものが大きく変容している現場において、少数の難病患者がどのようにして「在宅」という現場で「生活者」として生き抜いているかを描き出すために、質的研究、特にフィールドに浸入して行われるエスノグラフィ研究の重要性は論を俟たない。しかし、筆者らも述べているように、このような領域においては、参照すべき既存の「モデル」は不在であり、それは研究法としてのモデルについても同様である。本研究は、稀有でユニークな「在宅」というフィールドにおいて、「使えるものは何でも使う」という体当たり的な研究実践の試みであるとも言える。選考委員会においては、方法論にやや荒削りな点が認められるという評価もあったが、既存のモデルに従うのではなく、フィールドとそこでの「生活者」の生き生きとした生きざまを描き出し、そこから新たな現場への転用可能性を持つ知見を生み出していこうとする筆者の研究姿勢は十分に評価に価するとされ、「優秀フィールド論文賞」にふさわしいと結論された。