優秀フィールド論文賞
神崎 真実・サトウ タツヤ
通学型の通信制高校において教員は生徒指導をどのように成り立たせているのか ─ 重要な場としての職員室に着目して第14号(2015), 19-37.
通学型の通信制高校が増えている現状では、様々なニーズを持った生徒への対応を迫られる通信制高校の教員たちが、どのように生徒指導を行っているのか、その具体的な方法を明らかにすることは、非常に意義あることである。本論文は、一年間にわたる通信高校での参与観察の中で、職員室に観察を焦点化していった。そして、生徒指導の内容を明らかにするために、フィールドノーツから職員室での生徒と教員の交流の事例を取り上げ、KJ法に準じた方法を使って分析した。また、職員室で生徒と教員が交流するメリットという視点で事例をとらえなおし、職員室が果たしている機能を明らかにした。このように、丁寧にフィールドにかかわったからこそ得られる豊かなフィールドノーツをもとにした分析は、非常に具体的で納得のいくものとなっており、実践上も有用な知見となることが期待できる。以上から、選考委員会では、本論文を優秀フィールド論文賞にふさわしいという結論に至った。
優秀コミュニティ研究論文賞
菊地 直樹
方法としてのレジデント型研究第14号(2015), 75-88.
著者の専門は,環境社会学であり,兵庫県豊岡市にある「兵庫県立コウノトリの郷公園」(県立大学の一部)のスタッフとして,同市に13年間居住しながら,絶滅危惧種のコウノトリの野生復帰プロジェクトに関与してきた。同プロジェクトに関する住民へのインタビュー,サイエンスカフェによる市民への情報発信,湿地再生など,その活動は多彩である。筆者は,地域住民の語りにおいて,人々のこの鳥に対する関わりや意味づけと呼称の関係性を明らかにしている。本論文は,この長期間にわたる研究活動における著者の位置付けを省察したものである。著者によれば,「レジデント」型研究者とは,地域社会に定住し,そこのステークホルダーとして,領域融合的な問題解決型研究を推進する者,といった意味である。結論として,著者が研究者と地域住民といった複数の立場を有すること,自分の研究に関して他者とのやりとりを通じて自己を振り返っていくこと等を明らかにしている。菊地論文には,この内容のみならず,知識生産の拠点のあり方という点からも意義がある。同市は京阪神圏から150キロ離れており,大学等の研究機関は兵庫県立大学大学院(及びコウノトリの郷公園)等わずかしか存在しない。地域社会における数少ない研究者の有り様を記述した点が貴重である。あえて言えば,地方都市における研究知見の発信と,その地域社会へのフィードバックについても議論していただきたかった。また,著者は,今は,豊岡市を離れて大都市圏の研究機関に所属しており,今は「月に数回程度豊岡に通う半レジデント型研究者」になったとのことである。この2点に関して今後の論考を期待したい。
優秀着眼論文賞
山田 哲子
知的障がいのある子どもを緊急に親元から離すプロセスとは ─ 在宅ケアを望んでいた親の施設利用に焦点を当てて第14号(2015), 128-145.
日本では、成人した知的障がい者のかなりが家族と共に暮らしており、親がケアを担えなくなることを視野に入れた家族支援が求められている。本論文は、知的障がいのある子どもを緊急に施設に預けざるをえなくなった体験をもつ母親にインタビュー調査を行い、複線径路・等至性モデルにより分析したものである。著者は、親の心理的プロセスの時系列変化を丁寧にたどりながら、親が経験する心理的困難や、子どもの良い変化に気づくことで安定していく径路などを多面的に明らかにし、さらに知的障がい者の家族に対してどのような支援が求められるのか、実践的な提案をしている。本論文は、社会的要請がきわめて高いテーマに着眼したものであり、その意義は大なるものがある。以上から、選考委員会は本論文が優秀着眼論文賞にふさわしいという結論にいたった。




