優秀実践アクションリサーチ論文賞
山口 洋典・渥美 公秀・関 嘉寛
メタファーを通した災害復興支援における越境的対話の促進 ― 新潟県小地谷市塩谷集落・復興10年のアクションリサーチから第18号(2019), 124~142.
本論文は、第18号の特集テーマ「ゆるやかなネットワークと越境する対話 遊び、学び、創造」の論文のひとつであり、多様性のある本テーマにおいて、地域コミュニティの災害復興を素材としている。
本論文の最大の特徴は、新潟県中越地震の被災地である塩谷集落での10年にわたるアクションリサーチに基づいて、その復興過程を「メタファー」の越境機能という観点から詳細に論述している点である。メインとなるのは、「研究者と現場(研究対象者である住民)」をつなぐメタファーの機能であるが、それのみでなく、「研究者以外の外部支援者と現場」、「研究対象者である住民同士」についても、どのようにメタファーを介した越境的対話が進められるのかを述べていることは大変興味深い。
また、復興支援過程について、「学校メタファー」による分析を行っていることもユニークなところである。復興支援過程における対話を通じて、外部支援者から提示されたメタファーは、「種蒔き」と「学校」であるが、これらは単に「受ける言葉」ではなく、住民にとって「響く言葉」であったことにより、住民自ら主体的に塩谷集落での活動を継続したり、住民がめざす塩谷集落の新しいむらづくりに展開していくことにつながっていった様子が示されている。
欲を言えば、考察では、塩谷集落の活動のメタファー機能を既存の越境の観点との対応を整理するにとどまらず、本研究の強みである10年の実践から明らかになったことをもとに、新たに概念化を試みることもできたのではないだろうか。
以上、本論文は、甚大な発災当初から復興に至る過程に常に寄り添い、研究対象者と研究者が同じ目標を共有して、共同実践をしたアクションリサーチの特質を表現した労作であり、優秀アクションリサーチ賞を贈ることとした。
優秀経験記述論文賞
堀内 多恵・能智 正博
受傷アスリート男性の競技離脱経験をめぐる語り ― 本人の認識する復帰に焦点を当てて第19号 (2020), 89-102.
本論文の特徴は、第一線で活躍しているアスリートが、スポーツ傷害により、競技から離脱し、復帰するプロセスを丁寧に記述したものである。この評価ならば、読者は、本論文は挫折からの回復というよくあるストーリーを扱い、復帰の有無に焦点を当てただけと思うかもしれない。しかし、複線径路・等至性モデル(TEA)と、著者自身のもともとの研究知見により、プロセスにおける複線あるいは各位相の相互作用が丁寧に分析されている。著者自身が強調するように、心理的側面と、競技への復帰を重視する医療のあり方との関係性をみている。そこに至るまでの分岐点や通過点と、各々における医療言説を丁寧に記述している。論文要約にあるように「形成・変容・維持」こそが、我々読者が見るべきところである。相互作用は、発生の三層モデル(TLMG)で論じられている。ただ、TLMGについては、図解があったほうがわかりやすかったかもしれない。また、論文末のストーリーの議論には、より新しい研究知見を加えることもできたのでは、と思われる。今後の展開が大いに期待できる。
優秀看護実践研究論文賞
田代 幸子
集中治療室看護師の何気ない行為の成り立ち ― 意思疎通困難な患者を“感じている人”として捉え直す第19号(2020), 158₋174.
本論文は、集中治療室に勤務する看護師の「何気ない行為」の成り立ちについて、意思疎通が困難な患者と看護師との関わりを参与観察と現象学的アプローチにより記述した論文である。著者が着目した「何気ない行為」とは、看護師自身も明確に意識する手前で行われる多様な実践の成り立ちであり、それを実践が織りなされる現場の文脈をも含めて記述している。著者も述べている通り、「何気ない行為はその都度の状況になじみ込んでしまっているがゆえに気づかれ難く、その成り立ちを看護師自身で明らかにすることは難しく」、しかも集中治療室という急性期の場でそれに取り組んだ意欲的な論考と言える。
結果に示されているフィールドノーツとインタビューデータを読んでいくと、意思疎通が困難な患者の状態を観察するときに「聴診器で〇〇を測定する」、あるいは、医師の処置の介助をする際に、「ドレーン挿入の介助をする」という前後に行われている行為がいかに多様で、いかに細かなことが多いかということが生き生きと記述されている。そのような描写を通じて、看護師が患者を「意思疎通が困難でありながら"感じている人"」と捉え、問いかけながら行為するという対話的な関係の可能性を開いていったことを見いだしている。また、その記述はきわめて具体的で、読者がたとえ医療関係者でなくとも、その場の様子や看護師の行為など、現象の一コマ一コマが目の前にありありと浮かび上がることだろう。
欲を言えば、考察では、もう少し理論的な展開があってもよかったかもしれない。また、著者も述べているように、本研究の知見は、重度心身障碍児や認知症者などの意思疎通困難者のケアにも示唆を与えるものといえる。現象をこのような新しい切り口から読み取ることが、よりよい看護やケアにどうつながるのか、今後の研究を大いに期待したい。




