優秀社会貢献論文賞

東村 知子・鮫島 輝美

医療的ケア児の保育を可能にする「分けない」実践 ― 看護師が設立した保育園のフィールドワークから第20号(2021),278-297.

本論文は、近年、社会課題となっている医療ケア児の問題に取り組んだ意欲的な研究であり、完成度の高さもさることながら、研究を通して社会課題に対する一つの解を提示している点が高く評価された。本論文は、「医療ケア児があたりまえに保育を受けられ、保護者が安心して生活し、希望すれば働き続けられる」にはどうしたらよいか、という問いへの答えを、医療ケアが必要な子どもたちとそうでない子どもたちを「分けない」保育をじっくりと観察することから考えようとした思考の軌跡であり、2年半にわたって保育場面の観察や多数のインタビューを継続した厚みがそれを支えている。さまざまな職種のスタッフがうまく連携できるような工夫を、エプロンのデザインや、業務に用いるツールに見出すことにより、「分けない」保育のしくみを具体的に記述することに成功したと言えるだろう。
もちろん、研究が対象とした保育実践がすばらしいのであり、本論文はそれを記述したにすぎないという見方もできるだろう。しかしながら、すばらしい実践のすばらしさを適切に言語化するのは、容易なことではない。本論文の記述の明晰さは、すでに定評のある研究者が、保育と看護に詳しいという互いの強みを活かしながら時間をかけて実践を読み解いてきた成果である。それは、目の前の実践の豊かさを描ききろうとする執念なくしてはなしえないことである。
本論文を「支援の場を一つでも増やし、医療的ケア児があたりまえに保育を受けられる社会を作るための手がかりとなることを願ってやまない」と結び、社会問題へ貢献しようとする著者の姿勢に敬意を表し、優秀社会貢献論文賞を贈ることとする。


優秀継続観察論文賞

小野 友紀

園児の食事活動への参加過程 ― 園児はどのように自分の食事量を盛り付けるようになるのか第20号 (2021),207-223.

本論文は、保育園の食事場面で、子どもが自分の食事量をどのように判断しているかということに注目して、1人の対象児を長期にわたり継続的に観察した研究である。テーマのユニークさに加えて、継続的な観察から子どもの変化を丁寧に読み取っている点が高く評価された。
本論文で扱われたデータは11ヵ月に及ぶ観察にもとづくが、保育者へのインタビューも行いつつ、対象児と保育者とのやりとりを詳細かつ粘り強く追い続けたことで、盛り付けをめぐる相互行為の変化を長期的なスパンで見事に描出している。このような個別事例の研究には、対象児に特有のプロセスなのではないか、といった批判がつきまとうし、盛り付けという行為のみを分析することは、子どもの食事場面のごく一部だけを採りあげているようにも見える。しかし、1人の対象児の盛り付けという一点に集中したことが逆に功を奏して、食事量の判断を伴う盛り付けという行為が、保育者との関係の中でダイナミックに変化していくプロセスを具体的に示すことが可能になったと見るべきであろう。
このようなプロセスは、子どもが文化的実践にどのように参加していくかを示すものであり、まさにロゴフのいう「導かれた参加」である。継続的な観察をもとに、子どもが盛り付けをするという行為を微視的に分析することで「導かれた参加」の具体的なプロセスを描出できた点は本論文の大きな貢献であり、優秀継続観察論文賞を贈ることにする。


優秀チャレンジング・スタイル論文賞

舩木 伸江・矢守 克也・中村 翼

もうひとつの被災 ― 大災害の当日生まれの青年の苦しみと回復過程第20号(2021),224-236.

本論文は、1995年1月17日に生まれた一人の青年の苦しみとそこからの回復過程を丁寧に読み解くことによって、災害研究においてこれまであまり描かれなかった側面に焦点を当てるとともに、今後の学術雑誌論文のあり方の一つを示唆するであろうチャレンジングな方向性、つまり「研究対象者」との距離のあり方と論文における表現の工夫が評価され、本賞を受賞した。
質的研究は詳しく記述すればするほど、たとえ「Aさん」といった匿名にしたとしても、高度情報社会においては、組織における情報公開が進み、さらには個人からのSNS等での発信もあり、個人を特定することはさほど困難ではない。ましてやマスメディアに取り上げられればなおさらだろう。このような状況下では、単純に匿名にすることで研究対象者のプライバシーを研究者(著者)側は守ったことになるのだろうか。匿名化ではすまないと思われる問題に対して、本論文は一つの方向性を示していよう。
さらに、自らが指導した卒業論文を教員が加筆修正して学会誌に投稿することがかつてはおこなわれていたが、この点についても、本論文はメタ的な構成によって、今後の方向性を示している。
しかし、本論文の方法は諸刃の剣となる可能性がある。研究対象者が共著者となることによって(共著者間が支援者-被支援者の関係でもあり)、成功譚とも言うべき「美しいストーリー」にまとめられる方向に向かったのではないだろうか。美しいストーリーに回収できない、言語化することが困難な事象と格闘するダイナミズムにこそ、質的研究の意義があるのではないかという意見も選考委員会では出された。
とは言え、本論文は、災害研究への質的心理学からの貢献のみならず、様々な議論を次々と惹起するほど刺激的である。この点が本論文の魅力であろう。上記の理由より、優秀チャレンジング・スタイル論文賞を贈ることにする。