理事長挨拶

2004年に設立された日本質的心理学会は,当初から心理学にかぎらず,さまざまな分野で質的研究に関心を持つ人たちの交流の場として歩んできました。多くの学会が「学際性」や「多様性」を掲げていますが,実際にそれを実現するのは簡単ではありません。その点,この学会がそれを形にしてきたことは大いに誇るべきだと言えるでしょう。

心理学やその周辺分野では会員数が減少傾向にある学会も見られますが,本学会はむしろ漸増傾向にあります。近年の財務状況も堅調であり,『質的心理学研究』電子版の発行や事務局委託先の変更といった取り組みも進めることができました。このような恵まれた環境のもとで理事長職を務めることになったのは幸運なことだと思いますが,気を引き締めて取り組んでいきたいと思います。

設立から20年も経つと,当初の思いや情熱のようなものをそのまま共有するのはだんだん難しくなります。組織は時間とともに良くも悪くも安定化し,アイデンティティや独自性が定着する一方で,新しい考えや意見が入りにくくなる面もあります。

そこで,せっかくの恵まれた環境を活かしつつ,もう一度本学会の仕組みや制度を見直してみたいと考えています。役員のみなさんと議論を重ねて進めていくつもりですが,会員のみなさんからの率直なご意見や新しいアイディアもぜひお聞かせください。

さいごに,本学会のことが気になって,この文章を読んでくださっている非会員のみなさん。この学会をよりいっそうエキサイティングで創造的なコミュニティにしていく仲間に加わりませんか。

日本質的心理学会第5代理事長 尾見康博