締切:2025年 10月末日(厳守)

<趣旨>
Oxford Learners Dictionaries (n.d) 
によれば、コンフリクト(conflict)という言葉には、日本語で言えば葛藤・対立・紛争・戦争などと分けて表現されるような、個人の内的世界から国家までの多様な文脈における二つ以上の立場間の摩擦が含まれている。葛藤・対立・紛争・戦争と一つ一つを取り上げれば、内実も意味も、そこからもたらされるものも、全く異なっている。個人や集団、あるいは人と社会との間で生じるそうしたコンフリクトは、しかし、異なる立場が衝突しているという点で、多層的で複雑な背景を持っているという点で、そしてしばしばエスカレートし深刻な問題を引き起こすという点で、さらには時に人や社会が発展する機会をもたらすことがあるという点で、どこか似ているところがある。こう考えるならば、多種多様なコンフリクトを一度に見渡してみた時に、何か新たな展望が開かれることも期待できるかもしれない。
そこで、本特集では、質的心理学のアプローチで様々なコンフリクトを探求する論文を募集する。その対象や規模に限定はないが、さしあたり、次のような研究が例示できる。
1.国家・民族におけるコンフリクト戦争、紛争、移民・難民問題など、主に国家や民族を文脈とするコンフリクトを扱う研究。
2. 
社会・政治・文化におけるコンフリクト社会制度、文化的慣習、宗教、ジェンダーなど、主に社会・文化・政治を文脈とするコンフリクトを扱う研究。
3.対人関係・集団・組織におけるコンフリクト友人、夫婦、家族、顧客と店員、支援者と被支援者など、家庭や学校、施設、会社、その他コミュニティにおいて生じる、一対一から小集団までの関係性を直接の文脈とするコンフリクトを扱う研究。
4.個人内心理におけるコンフリクトアイデンティティの葛藤、社会的役割との違和感、他者からの期待に対する戸惑いなど、個人の内的心理を文脈とするコンフリクトを扱う研究。
5.コンフリクトに対する解決と和解
コンフリクトの解消や和解に焦点を当てた、対話や調停、支援などに関する研究。

この5つの区分はあくまで便宜的なものである。国家間のコンフリクトと集団間のコンフリクトは影響し合うだろうし、個人内のコンフリクトの背景をその人を取り巻く社会制度との間のコンフリクトとして検討することも当然あるだろう。狭義の意味では「心理」とは言えないような、集団や構造間のコンフリクトに主要な焦点があたっていても構わない。
また、敢えて5として分けたことからわかるように、必ずしも解決や和解を念頭に置く必要もない。どのようなコンフリクトをどのように扱うかについては、インタビューや観察などで得られた何らかの質的データを質的心理学のアプローチによって研究するという限りにおいて、特に限定しない(代表的な書き方としては、レヴィット, 2023 が参考になるだろう)。むしろ、既存の垣根を超えて横断的に検討しようとする試みは積極的に歓迎したい。
コンフリクトが二つ以上の立場間の摩擦である以上、投稿者にぜひとも留意いただきたいことがある。それは、コンフリクトにおける対等性あるいは権力差についてである。ここで言う「権力」は、いわゆる支配者のそれというよりも、一方が他方に対して持つ影響力の大きさといった意味合いである。研究にあたっては、こうした影響力が当事者間で対等に分配されているのか、あるいは不平等に分配されているのか、吟味していただきたい。
なぜなら、一般にこうした権力は、社会・文化・政治・経済・歴史といった広範な文脈を通して保証されるものであるため、そこに無自覚な研究は、結果的に(研究者の願いとは裏腹に)社会の不平等や不正義を助長し、弱者を抑圧するものとなりかねないからである。そして、もう一つ本企画を通して、ぜひ留意していただきたいたいのが、研究者自身の立ち位置である。というのも、あるコンフリクトにおける対等性を吟味するということは、すなわち、そのコンフリクトに対する研究者自身の視点を吟味するということ、言い換えれば、研究者自身を省察することにほかならないからである。コンフリクトを研究しようとする時、研究者もまた何らかの形でコンフリクトにかかわらざるをえない。したがって、研究者自身の省察もコンフリクト研究の重要な知見となり得る。こうしたコンフリクトを巡る研究者の省察自体を取り上げる研究も歓迎したい。
無力感と怒りを抱くしかないコンフリクトを否が応でも目にせざるを得ないこの世界に、本企画のタイトルである、コンフリクトと『向き合う』ことを通して、何か希望を探る機会となることを願い、多くの投稿を待ちたい。
レヴィット, H. M. (2023) 心理学研究における質的研究の論文作法——APAスタイルの基準
を満たすには (能智正博・柴山真琴・鈴木聡志・保坂裕子・大橋靖史・抱井尚子).
新曜社. (Levitt, H. M. (2020). Reporting qualitative research in psychology: How to
meet APA Style Journal Article Reporting Standards (Revised Edition). American
Psychological Association.)
Oxford Learners Dictionaries (n.d) conflict noun.
https://www.oxfordlearnersdictionaries.com/definition/american_english/conflict_1
(
情報取得2023/11/21)

  • 書籍
  • 質的心理学研究:特集
  • 【募集中:第26号】特集:「コンフリクト」と向き合う(上手由香・綾城初穂 責任編集)(2025年 10月末日〆切)