締切:2011年10月末日(受付終了)
特集趣旨:人間発達過程への「文化-歴史的アプローチ」が登場し、心理過程と文化との相互構成過程を見つめる「文化心理学」が展開しつつある昨今、その影響を受けて、広範囲の心理学研究において、文化の視点から現象を再考する動きが進んでいます。これまで自分の文化を再認識する視点を持った研究といえば、文化間の移行や異文化との邂逅など動的な心理現象に、異文化性の影響を読み解こうとする試みや、特定の心理現象を文化間で比較する営みが中心でした。専ら自文化内での発達過程に照準を合わせた心理学研究では、文化の視点から観たり評したりする視点を表に出さないことが多かったように思います。研究で用いられる用語や概念は、本来、当該の社会文化的文脈下で展開され共有されているものであるはずですが、それらが文化的な概念として捉えられ、明示され、議論されることは希薄でした。
そもそも「文化的実践」とは、社会固有の理論・知識・意味・慣行・身体技法が埋め込まれた、他者との共通性と反復性を持つ諸行為の総称と考えられます。だとすれば、自文化内で繰り広げられる「全ての営み」は、基本的には文化的実践の範疇に入ります。この意味で各種の人の「発達」は、文化的実践への参加を通して生起する現象だという見方ができるでしょう。本特集では、広く心理的な切り口から捉えられる「発達」の過程に対して、「文化」の視点を取り込んでアプローチする研究を広く募りたいと考えています。
例えば、文化を社会的表象として措定し、個人が特定の社会的表象を取り込んでいく過程を行動レベルで解明するような研究が考えられます。個人の行動のしかたには連続性があるのか、それとも何かの契機があれば変容することがあるのかなど、実際の状況や他者との関わりの中で、当事者の意味づけを織り込んだプロセス研究などは、質的研究による精緻化が期待されるところでしょう。
また、文化を「一定の範囲の人々において共有され伝達されるもの」と定義するならば、心理面での動的な変容過程と文化という環境面の要素を組み合わせた研究、例えば企業など特定の集団の風土や個性の成熟過程なども視野に入ります。特定集団の規範の生成機序、地域文化の変容過程など、社会的視点を取り込むことが可能でしょう。こうして地理的な単位で捉えられる文化も、特定の集団構成員のカラーとして捉えられる文化も、考察の対象に含めていけます。
こうした研究では、設定された文化概念の有効性・機能性が問われるでしょう。研究者が文化と発達の関わりにおける何を解明の対象とするのか、そのために文化を理念的にどう定義し操作的にどう扱うのか、試みられてきた様々な手法を視野に入れた時に、どのようなアプローチがいかなる意味で有効性を発揮するのかを、作品の中で示して頂けることを期待しています。特に、文化と発達との関わりを解明する上で、質的研究法であるからこそ可能な研究とはどのようなものか、逆に質的研究法であるがゆえの限界はどこにあるのかについて、建設的な議論を展開して頂ければ、資するところが大きいと思われます。丹念な探求は勿論のこと、従来の説に留まらずに「文化と発達」との関わりを根本から問い直すような迫力のある論文や、新たな視座や技法を提供して次なる地平を切り開くような斬新な論文を、大いに歓迎します。
- 書籍
- 質的心理学研究:特集
- 【第12号】文化と発達(責任編集者:柴山真琴・田中共子)