締切:2013年10月末日(受付終了)

特集趣旨:東日本大震災後、および原発事故後の現在においては、研究が社会における実践にどれほど貢献できるのかという課題が先鋭化しています。質的研究は、研究対象者やフィールドの「現実」を、量的研究よりも深く汲み取れることを自負してきました。たとえば社会学や文化人類学における質的研究は、社会的マイノリティ(例、障害者、被差別部落の人々、都市の貧困地域)、文化的異邦人(「先進」国からみた、「未開」地域)の問題にしばしば取り組み、実践にも寄与しようと努力を重ねてきました。心理学の質的研究においても、社会学や文化人類学ほどではないにしてもこのような傾向は一定程度認められます。本誌が求める質的研究は、程度の差こそあれ、社会的な実践と無縁ではないのです。

ただ、一口に「質的研究における社会的実践」と言っても、実に様々なかたちがありえます。研究のテーマや対象がディシプリンによって異なるだけではありません。現実や社会に対する質的研究のアプローチを大別すれば、現実をよりよい方向に変化させることに主眼をおく「実践する研究」と、そうした変化に関わる営みを記述する、「実践に関する研究」とがあるでしょう。言うまでもなく、この2つの間に優劣はなく、双方ともに私たちの生活に何らかの貢献をするものです。

そこで本企画では、社会における広義の実践と質的研究との接点に関わる論考を幅広く募集します。想定されるのは、たとえば社会福祉、看護やリハビリテーション等の医療、臨床心理、保育実践、教育実践など、「実践現場」が社会制度として確立している分野における介入研究です。あるいは、問題解決の方向を探るデータ分析の方法に焦点を当てたり、研究知見やモデルと実践を循環的につなげたりするような、実践的研究の方法に関わる論考も考えられます。また、災害支援、町作りや環境保護といった住民活動、「法と心理学」における供述分析のように、必ずしも制度化されていない実践に関連した研究も歓迎します。さらに、このような応用研究から派生する、社会と質的心理学との関わり方を論じたり、アクションリサーチ、実践研究などといった類似概念を展望したりするような理論的な論考も求めます。