締切:2015年10月末日(受付終了)
特集主旨: 社会学や心理学、教育学、または福祉、看護、医療といった人々の実存をあつかう「臨床的」現場において、質的なるものをどのように捉え、解読し得るのかは本質的な問いである。そして、これまでこの問いに答えるために、様々なかたちで経験的な質的研究が工夫され、実践されてきた。以前では不可能であった映像資料の作成や活用も調査分析機材の飛躍的な技術革新にともない可能になり、かつまた、研究成果の提示においても映像を活用することが増えてきている。それは質的研究において、質的なるものへのアクセスとアプローチの革命的な変容であったと言えるかもしれない。しかし他方で、こうした変容に適合し得る質的研究における映像の可能性が、十分には追求されていないようにもみえる。
今回の特集では、質的研究における映像の可能性について、なるべく幅広く論じてみたい。たとえば社会学においても、近年、日本社会学会の『社会学評論』において映像社会学の特集が組まれたり、社会調査における映像の利用法をめぐる翻訳が刊行されたりしており、映像への関心が増大していると言えるが、映像資料をどのようにして社会問題研究や文化研究に活用できるのかの議論は途上にある。また、エスノメソドロジーにおける会話分析から相互行為分析の流れの中で、映像をもとに作成されたトランスクリプトでの分析が蓄積されているが、エスノメソドロジー的な発想で、映像をいかにトランスプリプト化し、そこから何が分析できるのか。その際、分析をする研究者の問題関心と映像から選択してトランスクリプト化する作業との関連は、どのようなもので、研究者自身が、その関連性についていかに自覚し反省しつつ、分析を行い得るのか、などの方法論的な問いは依然として魅力あるテーマといえる。
他方、現代文化や多様な“生きづらさ”を生起させる多様な社会問題を生きる人々の現実を読み解くうえで、映画やテレビドラマ、ドキュメンタリーなどの映像資料をどのように利用でき、どのような仕方で何を読み解けるのかという興味深い課題がある。映画やドキュメンタリーなどの映像を自らが工夫した方法で資料として活用し、そこから何を、いかにして読み解くことができるのか。またそうした試行的な解読が文化、社会をめぐる質的研究に対してどのような新たな意味をもたらし得るのだろうか。
教育、看護、福祉、医療などの領域では、映像を用いて研究成果を提示する流れが存在しているが、それらは、いかに用いられ、またこれからいかに用いられ得る可能性があるのだろうか。
できるだけ幅広く問題関心をおさえたうえで、今回の特集では、具体的な映像資料を用いた分析の試行や個別の臨床領域における映像活用の可能性、さらには質的研究における映像分析をめぐる方法論的な論考、非言語的研究スタイルの可能性に関する論考など、チャレンジ精神あふれる多くの論考がエントリーされることを期待したい。
- 書籍
- 質的心理学研究:特集
- 【第16号】質的研究における映像の可能性(責任編集者:好井裕明・樫田美雄)