締め切り:2016年10月末日(受付終了)

特集主旨:近年、レジリエンス(resilience:「リジリアンス」「リジリエンス」とも表記)という言葉を耳にすることが多くなった。データベースに登録されるレジリエンス研究も指数関数的に増大しているという。「復元力」「回復力」「しなやかさ」「打たれ強さ」などと訳されることが多い。精神医学、心理学、ソーシャルワークといった領域では「逆境やリスクの存在にもかかわらず、良好な適応をしめすこと」とされる。

現在、レジリエンスが注目される領域は多岐にわたる。精神障害のリスクを抱える人々の予防にはじまり、虐待や、貧困、戦争や自然災害を経験して育った子どもが、不適応に陥ることなく育つことを保証する観点から、あるいは、末期ガンの人々や家族への支援に関わってレジリエンス研究の必要性が広く認識されるようになっている。個人のみならず、自然災害によって、人間関係のつながりを失ったコミュニティをどのように再生していくのかといった議論もあれば、工学的な立場から、災害にあってもいち早くたちなおる街づくりを目指すという意味で「レジリエント社会」「レジリエンスな街づくり」といった用語がきかれるようにもなった。

このようにレジリエンス研究は増大しているが、大部分はレジリエンスを一変数とした、数量的な手法によるものである。その具体的な様相をどう記述するのかという方法論に関する議論は、いまだ十分ではないように思われる。

例えば、レジリエンスを、どのような概念としてとらえるか。逆境やリスクをはねかえす強さととらえる言説もあるが、レジリエンスとは個人の特質であるというよりは、逆境にあるなかで、周囲の環境との相互作用の結果としてうみだされるものとしてみることが一般的になってきている。また、レジリエンスとは、単に逆境やリスクにみまわれる以前の姿に戻ることでもない。例えば、自然災害があったコミュニティがレジリエンスを発揮するという場合、それは当初の状態に戻ることではなく、災害の教訓をいかして新たなコミュニティへと生まれ変わる過程かもしれない。虐待にさらされて育った子どものケースのように、そもそも戻るべき状態が想定できないものもある。

また、研究者のスタンスも、自然に生じたレジリエンスの観察に専念する立場から、積極的にレジリエンスを育てるための援助の提供者としての立場まで担うようになってきた。そこでは、援助者がどのような意図や狙いをもって介入したのか、あるいは、複数の援助者がどのように協働したのか、援助者自身の認識の変化の過程などが注目される。その一方、そうした周囲の環境は、ただあるだけでなく、当事者に援助資源として意味づけられる必要がある。人々の意味生成過程に着目することも重要だろう。

このように時間の流れのなかで、多様なエージェントが関わっておこる複雑な相互作用過程を記述するうえで、質的研究が役立つのは間違いないが、そこにはどのような工夫が必要になるだろうか。今回の特集では、多様な領域において、レジリエンスの生成過程を、豊かに記述した経験的研究や、方法論をめぐっての論考をつのることでその問いの答えに近づいてみたい。オーソドックスなスタイルはもちろん、多くの萌芽的で、挑戦的な論考がよせられることを期待したい。