企画趣旨

質的研究はデータや研究・分析法のみに特徴があるのはありません。 問題・テーマの設定~対象との関わり方~データの収集法~分析法~結果の表現 法が一連のつながり・流れをなしています(これを横軸・X軸とします。)また、 それぞれの過程は、認識論的背景~方法論~研究手法~テクニック(例えば、客 観性批判~関わりながらの観察~参加観察~現場での居方・関わり方)という根 底から表層への垂直軸(縦軸、Y軸)を内包しています。さらに、エピソード記 述、現象学的アプローチ、グラウンデッド・セオリーなどの研究法・分析法(Z 軸)により整理することもできます。これまでのセミナーでは研究法・分析法(Z 軸)を一つ選び、その研究法・分析法から研究の流れ(X軸)と研究活動の重層 性(Y軸)を考えてきました。今回はY軸を主軸として、つまり具体的な研究活 動が根底にある見方や考え方(理論や概念)とどのように関わっているのか、さ らに、一連の研究の流れ(X軸)がどのようにつながっていくかを考えていきた いと思います。そこで祭りや都市計画、子どもの居場所や寄り道など現場におけ る研究の実践(フィールドワーク)と、哲学、文化人類学、文学、宗教などの理 論や概念を結びつけながら、独自の研究を進めていらっしゃる南博文先生(環境 心理学がご専門)に講師をお願いしました。1)南博文先生の話題提供をもとに、 2)質疑応答を行い、3)その上で参加者の体験も交えて、意見交換を行いたいと 思います。質的研究について、「意味を解釈する」「読む」という活動から根本的 な問いをじっくり考え、その問いと思考が実際の研究活動につながる場を目指します。

日時

2018年3月3日(土) 12時30分~15時30分(延長~16時30分)

場所
  • 広島国際大学広島キャンパス8階(広島駅より徒歩10分)
    (http://www.hirokoku-u.ac.jp/access/hiroshima.html)
話題提供・講師

南博文先生(九州大学大学院人間環境学研究院教授)

話題提供

「症候的に読む –テクストから都市風景まで–」

質的な分析と呼ばれる領域で用いられる「方法」があるとすれば、その主要な一 つは、一次資料を「読むこと」であると言えると思います。ただし、何でも読む べき素材になるか、あるいは話されたことがすなわち一次資料かと言うと、そう ではないだろうと考えます。「意味」を読み解くという行為が要請されるには、素 材の中に不可解さや、意味理解の齟齬、ディス・コミュニケーションが含まれる という、読まれるべき対象の側からの「問いかけ」、あるいは解読を要請するサイ ンが備わっているだろうと考えます。それをここでは、「症候」と呼んでいます。 「症候的に読む」という表現は、アルチュセールの『資本論を読む』で使われた テクストを読む際の構造的な視点です。フロイトを意識していますが、むしろ社 会科学一般に適用される発見的(ヒューリスティック)な観点だと思います。ブ ルーナーの「意味の行為」論をもう少し構造的に(表層と深層との段差を設けて) 見ていく視点になるかと思います。質的研究法にはいろいろな方法論があり、そ れぞれ共通点と特色があります。この企画では、「症候的」という観点と「読む行 為」という2つの問題系について学ぶことを通して、方法論についての考察を深 めたいと思います。3つの文献を下記に掲げました。この順序で当日の議論に関 わるものです。事前に読めるものに目を通していただければ、議論が深まるかと思います。

事前学習図書 文献

ブルーナー, J.S.(1999,2016新装版)『意味の復権』ミネルヴァ書房
アルチュセール, L.(1996絶版)『資本論を読む上中下』ちくま学芸文庫(1982絶版・合同出版)
赤瀬川原平(1987)『超芸術トマソン』 ちくま学芸文庫

タイムスケジュール

12:30 企画趣旨説明
12:40 講演(話題提供)「症候的に読む」
14:10 休憩  14:20 講師との質疑応答・参加者による討論
15:30 終了(必要に応じて延長)
16:30 延長の終了

備考

事前申込は不要です。当日、会場にお越しください。
非会員の方でも関心をお持ちの方はご参加いただけます。

問合わせ

t-kasimaアットhw.hirokoku-u.ac.jp(担当:鹿嶌)

主催

日本質的心理学会研究交流委員会

  • 大会外企画
  • 質的研究セミナーのお知らせ 「なぜ意味が問われるのか-質的研究における〈読むこと〉の方法探求」